「建艦競争」デザイナーズノート

 「建艦競争」は私のライフワーク、構想10年の大作、、、というのは大嘘です(笑)。大体、構想10年とか聞くと、そんなに時間をかけなければ、まとまらないような代物なのか?とか思ってしまうぐらいですから。
 このゲームの場合には、発案から完成まで一ヶ月ぐらいでした。ゲームの原点は20世紀初頭の英独の戦艦建造競争です。これをゲーム化できないかというのは確かにかなり昔から考えてはいたのですが、私の得意とするカードゲームとするには、英独の2勢力、無理して米を加えても3勢力にしかならず(その他の日本、イタリア、フランス、ロシア等は前3者に比すれば取るに足らないでしょう)、ゲームにまとめることができずにいたのでした。

 最初の転機は無国籍化でした。
 「戦艦の国籍を問題にせず、プレイヤーに自由に建造させるようにすれば、シミュレーションとしてはともかく、ゲームとして問題はないじゃないか」
と気がついたのです。
 これにより本格的なゲームデザインに着手できるようになりました。
 当初システムの参考にしたのは「ハンニバル」(アバロンヒル社) のカードプレイシステムでした。カードに1〜3の価値を与えそれを建造費等に使用しようと考えたのです。しかし、これがうまくいきません。どのカードにいくらの価値を与えるべきか?、それぞれの価値のカードの枚数の比率は?、コスト支払いの際に捨て札を公開しなければならない等が問題でした。しかし、
 「すべてのカードのコストを1にすればいいじゃないか」
と思いついたことにより上記の問題はすべて解決したのでした。これが第2の転機となり、ゲームは完成に至るのです。

 基本的なシステムは配られた手札の中の戦艦を建造する。建造費は手札を捨て札とする。ということで固まりました。
 シークエンスは、カード入手→カードプレイ→戦艦建造と当初から考えていました。また、各フェイズはできるだけ全プレイヤーの同時プレイとすることも決めていました。これは、席順を影響させたくなかったことと、プレイの待ち時間を短縮するためです。

 次にカード枚数の検討に入りました。総カード枚数は108枚と決めていました。これは、「カード枚数の多過ぎるゲームは面白くない」という経験則からベスト枚数と思っているためです。それにあまりカードが多くなりすぎるとカード作りが大変という点もあります(笑)。総数の半分を戦艦カードとしようと当初から考えていたため、54枚を戦艦カードとしました。できるだけ多くの戦艦をカード化したかったため、各クラスのネームシップのみをカード化していきました。すると丁度、ワシントン条約までの戦艦で54枚となったのです。というわけで第一次世界大戦までの戦艦にするつもりだったのですが、ビッグセブンまで入れてしまいました。

 戦艦カードは良しとして、残りのカードをどうするか?
 戦艦を改装することは当初から考慮に入れていましたので、改装カードが必要です。
 プレイヤー間で大国、小国の違いを出すために国力カードを入れることも最初から考えていました。
 プレイヤーに自由に戦争を起こさせるわけにもいかないため紛争カードがなければ、戦えないこととしました。
 そして当然イベントカードは必要です。

 これらのカードを9枚を単位として枚数を決めていきました。何故9枚単位かって?A4の用紙1枚からカードが9枚作られるからです(笑)。

 さて、戦艦カードの各世代の枚数ですが、これはゲーム展開を考慮して慎重な検討の末に決定された、、、わけでは、全然ありません(笑)。後述の基準に従って世代を決定しただけです。一通りカード枚数を決めたところで、ゲーム開始時に配られるプレイヤーの手札に第1世代戦艦が全くなかった場合、ゲームが始まらないことに気がつきました。これはまずいので、何か対策が必要です。そこで、とりあえずそれが起こるのはどのぐらいの頻度かを見るために、初めて各世代毎の戦艦の枚数を数えてみたのです。すると、第1世代の戦艦が26枚もあったのです。実に全カードの4枚に1枚が第1世代戦艦なわけで、これなら問題ないとしたのでした。

 さて、戦艦のデータについて述べましょう。

 戦艦のデータは「世界の艦船」別冊の「近代戦艦史」記載のカタログスペックに準拠しています。

 速力は最大速力のノット数をそのまま使用しています。これは、2〜3ノット程度の速力差が戦闘に大きな影響を与えていたことを反映するためです。実際このゲームでも3ノットも速力の差がつくとかなり見劣りして思えるはずです。特に20ノットを下回るような鈍足戦艦は浮き砲台呼ばわりされ、火力と装甲に優れていても最終決戦で活躍することはあまりありません。どんな戦艦よりも遅いため相手を選ぷことができないためです。大抵の場合、より以上に強力な戦艦をぶつけられるか、あまりにも優速な戦艦にあしらわれる結果となります。

 破壊力は主砲口径で決めてあります。11インチ砲が0、12インチ砲が1、13.5インチ砲が2、14インチ砲が3、15インチ砲が4、16インチ砲が5です。実際には、砲身長が異なっていたりするのですが、一律に口径で決めてしまいました。おかげでドイツ戦艦が非常に非力になっています。

 防御力は耐久力と装甲があります。耐久力は排水量から計算しました。常備排水量を5000トンで割って四捨五入しただけです。この数値はドレッドノートで耐久力4程度とするためでした。

 装甲については、かなり適当に数値化してあります。まずカタログデータでは水平装甲と垂直装甲の2つの値があります。このゲームでは、垂直装甲のみを使用しました。というのも、水平装甲の厚さはどの戦艦も大差なく、差別化できなかったためです。垂直装甲厚200mm未満で0、200mm程度は1、250mm前後が2、300mm程度で3、330mmを超えると4としました。それまで50mm刻みであったのがなぜ、装甲4だけ330mmからなのかというと、クィーンエリザベスの装甲を4にしたかったからなんですね(笑)。

 戦艦の世代は主砲口径で決めてあります。おおむね破壊力と同じです。ただし、ドイツ戦艦だけは同時期の英国戦艦と比べて一回り小さい主砲を搭載しているため、11インチ砲戦艦を第1世代、12インチ戦艦を第2世代としています。世代毎の戦艦枚数は第5世代が3枚、第4世代が5枚、第3世代が9枚、第2世代が11枚、第1世代が26枚です。如何に新型戦艦が高価で限られた隻数しか建造できなかったかが伺われます。ちなみに余談ですが、第5世代、第4世代の戦艦を合計すると8隻になります。このうちレナウンはあまりにも装甲が薄いため、外すとすると、丁度7隻となります。ネルソン、長門、コロラド、フッド、クィーンエリザベス、レベンジ、バイエルンの7隻をこのゲームのビッグセブンと呼んでいます。

 最後は建造費についてです。建造費は具体的な資料は何もないため排水量から計算しました。それ以外の要素は一切考慮に入れていません。砲力の増強にしろ、速力の増大にしろ、何をするにも排水量の増大を招くため、特に考慮する必要を感じませんでした。
 戦艦の維持費を1と既に決めていたため、基準となるドレットノートの建造費を2としました。そしてドレットノートと常備排水量の比の自乗倍で建造費を計算しました。単純な比ではなんだか、あまり面白くなかったためです。何の根拠もありませんね(笑)。にもかかわらず、この計算方法は35000トン程度までは非常にいい感じの結果となっています。不思議なものです(爆)。それを超えるといささか大きくなり過ぎるようですけど、、、。フッドの建造費はどう考えても過大です。そのため、フッドで9程度になるように変更しようかとも思ったのですが、1隻ぐらい建造不能の大艦があっても面白かろうと残しました。これは正解であったようです。フッド建造に血道を上げるプレイヤーも出ていますし。こんな艦、誰が建造できるんだ?と思っていたのですが、結構、建造できてしまうものですしね(笑)。

 以上のレーティングは軍縮条約以降の戦艦には使えません。主砲口径は15インチが標準になっているし、垂直装甲も条約戦艦より薄くなっていたりします。それにレーダーなどそれ以前の戦艦には存在しない重要な装備が出てきます。そんなわけで、一番メジャーな戦艦群はゲームに登場しないわけです。まぁ、軍縮条約以降の戦艦を入れなかったのは、データ云々以前に、なんと言っても第二次世界大戦では戦艦は主力ではなくなっていたからです。これが最大の理由です。

 次は海戦システムについてです。
 このゲームのシステムはGJの付録ゲーム、「大艦巨砲主義」のシステムを参考にしています。ただしカードゲームということでCRTを使用したくはなかったため、距離の概念を無視してしまいました。決戦距離以外は割り切ったわけです。遠距離での射撃はどうせ当たりはしませんから別にどうでも良いのですが、近距離に肉薄しての乱打戦ができなくなってしまったのは、ちょっと残念に思っています。

 命中弾のダメージルールはクリティカルが強烈過ぎるかと最初は思ったのですが、実際にプレイしてみるとこのぐらいで丁度いいぐらいですね。過激なぐらいが面白いです(笑)。

 さて、戦艦の速力の扱いには気を使いました。従来の水上砲撃戦ゲームでは速力はあまり重要な要素ではありませんでした。しかし、高速艦しか水上砲撃戦においては役に立っていないという史実があります。そのため、速力の優越については、何とか表現したいと知恵を絞りました。砲撃ルールの方で射程の概念を放棄してしまったため、史実のように距離を選べるというアドバンテージをルール化できなかったため、かなり苦し紛れなルールになってしまいました。それでもこの砲撃力半減のルールのおかげで、「建艦競争」では、フィッシャー提督の様に装甲よりも速力を重視するプレイヤーが実際にでてきたのです。

 デザイナーとしてこの砲撃戦システムは非常に気に入っています。高速戦艦の有利と脆さを実感できますし、大口径主砲の威力は各国が巨砲主義に走ったことを納得させてくれます。しかしながら、命中率の兼ね合いから小口径砲を多数装備するのも捨て難い。といろいろジレンマが感じられるシステムと自負しています。

 しかし、ゲームスケールとのマッチングにいささか難があるのも事実ですね。紛争時の2〜3隻程度の撃ち合いでは数が少な過ぎます。また、最終決戦の両軍合わせて20隻前後の戦いは多過ぎます。この砲撃戦システムだと双方5隻程度ずつの戦いが最も面白いはずなのですが、そういう戦いになることは「建艦競争」ではほとんどありません。
 にもかかわらず、このシステムを採用したのは、何故か?理由は勿論、ダイス振りが”燃える”からに他なりません(笑)。

 世界大戦のルールは、賛否両論で、一般ゲーム系ゲーマーは否定論の方が強く、ウォーゲーム系ゲーマーは肯定論が強いようです。デザイナーとしては、プレイヤーが手塩にかけて育て上げてきた艦隊に活躍の場を与えるためにあのような大がかりな決戦を用意したのです。しかし、一般ゲーム系ゲーマーの方は、自分の育てた艦隊に対する愛着があまりないということなのでしょう?それとも自分の作り上げた戦艦が戦いで沈んでいくのに耐えられないと言うことなのかなぁ。
 もっとも、この最終決戦は少々大がかりに過ぎるというのは事実なのですが(笑)。

 最後にプレイ人数に触れましょう。私はこのゲームの完成当初、プレイ可能人数は5人までと考えていました。その根拠はこうです。
 6人でプレイすると仮定します。
 毎ターン、各プレイヤーは6枚のカードを手にします。手札として残すカードは各プレイヤー平均して1枚あるかないかでしょう。
 これに、国力カードの枚数が上乗せされます。国力カードは全部で9枚ありますが、全部は場に出ないとしても6枚ぐらいは常に出ているでしょう。すると6人×5枚+国力分6枚=36枚が毎ターン山札から配られます。
 一方、建造された戦艦や使用された改装カード、国力カードはプレイヤーの手元に残され、山札に戻りません。この枚数を各プレイヤー5枚程度と見積もると、30枚が場に出ていることになります。カードは全部で108枚ですから山札の枚数は78枚となります。ここから先に計算したように、毎ターン36枚が配られますので2ターン少々で切り直しとなります。切り直し毎に緊張レベルがあがるゲームでこれはまずいだろうと考えたわけです。
 ところが、いざ大人数でプレイしてみるとそんな心配は杞憂であったことが分かりました。最大で9人プレイまでしたことがありますが、非常に面白かったです。みなさんも大人数でのプレイを楽しんでください。
 

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